誰かから何かを買うとき、大事なのは「何か」より「誰か」

複数人がテーブルを囲み、立ち上がった女性が向かい側に座っている男性と握手している会議室の写真

先日、とあるクライアントの方がおっしゃっていたことが、とても印象に残っています。

その方は大変話がお上手で、情熱と説得力のある語りっぷりと、溢れんばかりの人間的な魅力に、打ち合わせのたびに聞き惚れてしまい、思わず仕事のことも忘れてしまうほどです。

当然ながらお仕事の技量も素晴らしく、わたしたちが立ち上げ間もない頃からお手伝いしていた仕事でも、才気煥発に次々と施策を打ち出し、その弁舌で周囲をどんどん巻き込んでいくことで、今や業界内では引く手数多の重要な事業に成長しています。

その方が、事業を成長させるために行なってきたさまざまな取り組みについてお聞かせいただいた際に、とあるベンチャーキャピタルから言われたこととしておっしゃっていたのが、

「ベンチャー企業にお金を出すときの決め手は、事業計画書の内容ではなく、その人が最後までやり切る人間かどうかで判断する」

というようなことでした。

その数日後、同業種の仲間と打ち合わせをしていた際に、補助金制度への申し込みについて伺っていたら、その方もやはり「決め手になるのは、書類の内容以上に“熱意”」というようなことをおっしゃっていて、なるほど、と得心しました。

結局わたしたちは、誰かから何かを買うとき、「何か」より「誰か」の方を大事にしていることが少なくないのかもしれません。それは、大きな買い物ほどそうなるのではないかと思います。家を建てるとき、車を買うとき、特別なディナーを食べるとき……もちろん、人が良ければなんでも良いわけではなく、何を買うかがまず第一ではありますが、少なくとも満足度や納得感は、誰かによって大きく差が出るように思います。

最近は「タイパ」という言葉が広まりすぎ、事業者側も「時間対効果」を意識しすぎるせいか、「お客様の時間を無駄にしない=サービスにあまり時間をかけない」傾向が強まっている気がします。銀行や携帯電話会社の窓口などで、流れ作業のような紋切り型の説明と「何か質問はございますか」と決まり事としてかけられる呼びかけに終始され、がっかりしたことが何度かあります。人件費の問題があるのはわかりますが、正直、わたしにとっては銀行も携帯電話会社も「どこでもいい」のです。その上、窓口の方が「塩対応」では、機会があれば、なんのためらいもなく別会社にあっさり乗り換えることになると思います。

翻ってわたしたちは、お客さまが必要としているもの、お客さまのお役に立てるものを提供できているか、わたしたちはお客さまにとって「この人に頼みたい」「この人と仕事がしたい」と思える存在になれているか、わたしたちは日々の仕事に、どれだけの熱意を傾けているか、そしてそれはお客さまに伝わっているか……非常に考えさせられました。