偶然につながる現象・セレンディピティを求めて

ノートの上に「CHANCE」という文字になるよう並べられたアルファベットの六面体5つとCの側にGの六面体

「セレンディピティ」という言葉をご存知でしょうか。偶然によって、意図しない成果を得られることを指します。日本語で言えば「瓢箪から駒」が近いのではないでしょうか。ポストイットの開発エピソード(接着剤の開発中、すぐに剥がれてしまう失敗作を「これはしおりに使える」と気づき製品化)が有名ですね。

最近、仕事を探し求めて営業活動をしていて思うのは、仕事はセレンディピティでしか増えないのではないか、ということです。

目的を持ってセールスアピールをすると、「それはそうと、こんなことできませんか?」と、ちょっと違う角度から相談いただいたり、目的を持ってパートナー企業に相談をしていると、「それは置いておいて、今お伺いした別のサービスが面白そうですね!」となったり。わたしたちの目的や意図通りの成果につながることはあまりなく、当初目指していたゴールとは別の、考えもしなかった着地点が見えてくることの方が多いのです。

もしかするとそれは、わたしたちの未熟さによるものかもしれません。はじめから確固たるビジョンを持って計画的にビジネスを進めていれば、こんな無目的な散歩みたいなことにはならないのでしょう。

でも、昔は同じように提案やヒアリングをしていても、このようなセレンディピティ的なことは起こらなかった気がします。目的と違っていれば、そこでその話は終了。特に発展も広がりもありませんでした。

もしかすると、今は誰もがセレンディピティを求めているのではないか、という気がします。なぜなら、その方が「楽しい」からです。目的を持って行動して目的通りに終われば、全ては想像の範囲内です。しかし、目的から道が逸れた途端、景色が一変し、不確定な新しい世界へと入っていくような感覚があります。自分の想像を超えた景色が見えた途端、ワクワクしてくるのです。

自分の想像を超えた景色を求めた人に、ジョン・ケージという作曲家がいます。彼が生み出した「チャンス・オペレーション」という作曲方法は、日本では「偶然性の音楽」と訳されたりしますが、フレーズやメロディから発想するのではなく、音符の配置をコイントスやサイコロなどで選んだり、演奏を奏者の解釈にまかせたりすることで、作曲家の意図を排除し、作曲家の想像力を超えた音楽を生み出すことのできる手法で、作曲がすべてを決め、指揮者の指示通りの音を奏でることを前提としたクラシック音楽の世界に大きなセンセーションを起こしました。

ケージは、自身の限界を超え、誰も聞いたことがないような音楽を生み出すために、さまざまな作曲を行いました。つまり、「偶然」は、「偶然生まれている」のではなく、「偶然が生まれるためのきっかけ」としての作曲を行うことで、必然的に生まれるということです。

……書いておきながら自分で何を書いているのか、よくわからなくなってしまいました(笑)。何が言いたいのかというと、AI隆盛の今、わたしたちは意識的にセレンディピティを求めて日々誰かとコミュニケーションを取り続けることが、人として価値のある、そしてやりがいを感じられる仕事を生み出すためには、非常に有効なのではないか、ということです。

この記事をきっかけに、お読みいただいたあなたとのセレンディピティが生まれることを期待して……。