なぜミャクミャクはみんな知ってるのに大阪・関西万博には誰も興味がないのか?

日本万国博覧会記念協会法・御署名原本の、裕仁天皇の署名が書かれたページの写真

開催まであと1年を切った、2025年の大阪・関西万博が、全く盛り上がっていません。

大阪近郊以外に住んでいる方々には、「万博って大阪だけは盛り上がってるんでしょ?」と思われていることでしょう。実際に関東圏のお客さまから「こちら(関東圏)では全然話題になってませんが、大阪では盛り上がってるみたいですね」と言われたこともあります。

実は大阪近郊にいても、盛り上がりの度合いは他の地域と大差ないのです。報道などで大阪の様子をご覧になっていると、盛り上がっているように見えるかもしれませんが、関西人の万博への関心は概ね薄いのが実情です。

わたしも万博への関心はほとんど無いと言っても良いのですが、それは万博に反対しているとかではなく、先に書いた通り、街中の宣伝行為で得られる情報が何もないので、関心を持つまでに至らず、盛り上がるに盛り上がれないのです。

先日、シラスという動画配信チャンネルで、万博をテーマにしたシンポジウムが配信されていました。シンポジウムの登壇者の中には、2025年の大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーで、話題となった「大屋根リング」を発案・デザインされた建築家の藤本壮介氏もいました。

シンポジウムは、万国博覧会そのものの歴史から来年の万博の是非、さらに能登半島地震への支援についてなど、さまざまな議論が繰り広げられましたが、藤本氏も含めて登壇者全員の総意としては、「今の大阪・関西万博は情報発信が足りていない」ことにあったように思います。

わたしたちは大阪でデザイン会社を営んでいますが(ちなみに大阪のクリエイター仲間と話をしていても、万博に関わる仕事を受けている人には、まだ会ったことがありません)、大阪市内を歩き回っていると、シンボルキャラクター「ミャクミャク」があしらわれたポスターやマンホール、ミャクミャクをモチーフとした柄でラッピングされた鉄道車両などがあちこちに散見されます。映画館に行くと、ミャクミャクが吉本興業のタレントとともに出演するチケット発売の告知も流れ、「万博に来てほしい」というミャクミャクの思いは、これでもかというほど伝わってきます。

しかし、「万博に行くとどんな体験ができるのか」「ミャクミャク以外に何があるのか」については、まるで規制されているかのように一切伝わってきません。先のシンポジウムでもその指摘があり、藤本氏は、広報活動について「万博協会も我々もよくわかっていない」と発言されていました。

実際のところ大阪・関西万博は、何も決まらず、何も進んでいないのでしょうか。万博のウェブサイトを見てみると、意外にもさまざまな情報が掲載されています。チケット情報はもちろん、テーマ曲や、SDGsに関するイベントについて、そして国内だけでなく外国のパビリオンの各国の概要についても触れられています。いずれも大まかなことしか書かれておらずまだまだ不十分であることに変わりはないのですが、街中を歩いていても伝わってこないだけで、既に公式に発信されていたことは間違いありません。

「ウェブサイトを見にくれば書いてある」ということは、「ウェブサイトを見ていない人には何も伝わらない」ということです。多くの人は、わざわざ自分から検索してウェブサイトを見に行ったりしません。ウェブサイトに行くためには、興味や関心を引く情報が先になければならないのです。

プロモーションは行われていますし、ウェブサイトも情報を発信しています。かなりの費用がかかっていることでしょう。しかし効果は、ミャクミャクの認知度を上げる以外には、ほぼ無いに等しい。この状況は、「プロモーションに失敗している」と言わざるを得ないでしょう。

ちなみに、「Googleキーワードプランナー」で、Google検索で「万博」に関するキーワードがどの程度検索されているか調べてみると(2023年4月から2024年3月まで)、1位は「ミャクミャク」です。続いて70年の万博(ちなみに1970年に開催された万博の開催地である吹田市の万博記念公園は、関西近郊の人々の憩いの場として、また、さまざまなイベントが開催されている娯楽の地として、常に多くの人たちで賑わっています。近くには水族館や観覧車、ららぽーとなどもあり、隣設されている映画館は、全国でも有数の「IMAXレーザーGT」の巨大劇場を備えています)、検索ボリュームが一桁下がって「万博ビースト」(吹田市の万博記念公園にあるアトラクションの名前)、その後にようやく「2025」というキーワードが登場します。「話題となった「大屋根リング」」なんて書きましたが、この結果を見ると、実は話題にもなっていなかったのです。

おそらく私たちに見えていないだけで、万博の舞台裏では非常に面白い企画やコンテンツが徐々に形になってきており、いざ開催されれば、きっと世界中の人たちが楽しめる特別なイベントになるのでしょう。そうだとしても、今は「面白そうに見えない、関心が持てない」。まともなプロモーション活動ができていれば、誰もがワクワクして、開催を心待ちにして、チケットもどんどん売れる状況になるにも関わらず、です。

なぜ、まともなプロモーション活動ができていないのか。お役所的な体制や大手広告代理店の関与についてなど、色々と噂話はありますが、端的に言って、「プロモーションを軽視している」からではないかと思います。それは万博のみの話ではなく、昨今の世間一般の風潮のように思います。特にコロナ禍以降、厳しい業績の中で企業は支出を抑えるために、広告宣伝費を削り、自社内でのSNSなどの運営にリソースを割くようになったという企業も少なくなかったでしょう。その戦略が間違いだとは言いません。ただ、誰もが成功する戦略では無いことは確かです。

万博の例は、「誰もが知り、誰もが注目するはずの大事業でも、プロモーション戦略をおろそかにしたことで大失敗することがある」ということを示しているように思います。

売れてもおかしくない良い商品なのに、なぜか思ったほど売れない……そんな課題があるのでしたら、あなたの会社のプロモーション戦略も、万博の現状を反面教師にして、改めて見直してみる必要があるかもしれません。