「クワイエットアワー」「WATSON AI」から考える、他者への理解の困難さと大切さ

折り紙で作った、視覚、歩行などのさまざまな社会的ハードルを示した人型のピクトの写真

本コラムでは過去に「SEO専門会社も見落としている「ウェブアクセシビリティ」の大切さ」「ウェブサイトを持ってるなら必ず知っておくべき「障害者差別解消法」について」という記事で、ウェブサイトのアクセシビリティを向上させるためのツール「WATSON AI」について触れました。わたしたちは、WATSON AIを知ったことをきっかけに、ウェブアクセシビリティの現状や、それまで聞いたこともなかった障害者差別解消法について学びましたが、そこで感じたのは、「他者のことを理解するのはとても難しい」ということです。

わたしたちは自分たちが不便な思いをした時に「なんて不便なんだ」と不満を覚えますが、この不便には主観的な部分があり、自分以外の誰もが感じる不便とは限りません。逆に、社会は想像を絶するほどの多様性があるので、自分が感じていない多くの不便が、今もどこかの誰かが感じているはずです。

つまり「ユニバーサルデザイン(老若男女や人種、障害の有無に関わらず、誰もが使いやすいデザインを目指すこと)」、「ダイバーシティ(多様性)」「インクルーシブ(包括的)」といった、誰も排除しない、どんな人にとっても使いやすいもの、というのは、100%満たすことはおそらく難しいだろうということです。しかしそれと同時に、誰かの不便に対する意識を持ち、一つでも、少しでも解決していくことは、わたしたちデザイナーがデザインという仕事を通して社会とコミュニケーションを取ることを生業としている以上、それは忘れず、日々実行に努めていくべきことです。

相模原にあるヤマダデンキでは、激しい光や音に対して不快感を覚える「感覚過敏」の方への配慮から、毎月2回1時間、「クワイエットアワー」と呼ぶ、店内の放送やBGMをカットし、照明も一部消灯、展示製品も音が出ないように設定する時間を設けているそうです。階段横にスロープをつける、段差をなくす、点字や音声によるガイドをつけるなどの肉体的な側面への対応ではなく、精神的な側面への対応というのは、実体験を伴わない人にとっては、明確に見たり聞いたり体験することが難しいので、理解し、実行するにはハードルが高かったのではないかと思います(商品を出店しているメーカーの理解も必要だったことでしょう)が、一部であり、短い時間であっても実行できているというのは、時代が大きく変わってきたのだということを感じさせられます。

WATSON AIには、画面上に情報が多すぎることで集中力を阻害されてしまう人のために、画面の半分以上の面積をわざと暗くして、一部だけが見えるようにすることで集中しやすくなるという補助機能がついています。ヤマダデンキの事例とは少し違いますが、わたしはこの機能を知った時、ヤマダデンキの事例と同様に、多くの人は問題に感じていない、でも人によっては障害になっていることが世の中にはたくさんある、ということに気付かされました。

「合理的配慮の提供」が義務となる改正障害者差別解消法は、2024年4月に施行されます。お店もウェブサイトも、お客さまのことを本当に考えているのか、その真意が問われます。

*WATSON AIは、バナナラボ合同会社が提供するウェブサービスです。