「ポスト・ポスト・トゥルース」時代に、雑誌の重要さを噛み締める

「今の若者は、SNSで情報収集している」とは、ここ数年よく目にするお話です。InstagramやTikTokで情報に触れることが日常の彼・彼女らにとっては、新聞・雑誌どころか、Googleで検索することすら「遅れてる」ということになるようです。そんな若者からすれば、検索することを「ググる」と言ってしまうのは、いまだにJRのことを「国鉄」と言ってしまうのに等しいことなのでしょう(笑)。
一方で、ネット上に氾濫する情報の不確かさへの危惧は、年を追うごとに深刻になっています。フェイクニュースという言葉が使われ出したのはいつ頃からのことでしょうか。偽情報に溢れていることを前提とした時代を指す「ポスト・トゥルース」は、ドナルド・トランプが当選したアメリカ大統領選挙の行われた2016年に広がった言葉です。同選挙に代表される虚実ないまぜの社会を象徴していたと思いますが、生成AIの普及によってディープフェイク画像・映像・音声が溢れかえる現代は、「ポスト・ポスト・トゥルース」と言っても良いかもしれません。
この「ポスト・ポスト・トゥルース」時代に、わたしたちが嘘に騙されないようにするためには、どうすればいいのでしょうか。これは簡単なことではありませんが、「嘘に騙されやすい状態」がわかれば、そのリスクを下げることはできるはずです。では、「嘘に騙されやすい状態」とはどんな状態でしょうか。
それは、「すぐ判断すること」です。
「人間ならば誰にでも、全てが見えるわけではない。多くの人は、自分が見たいと欲する現実しか見ていない」とはユリウス・カエサルの言葉(和訳は塩野七生著「ローマ人の物語」からの引用)ですが、ネットの情報は簡単に取捨選択ができるため、日々忙しい中で情報に触れる多くのユーザーはついつい「自分が見たいと欲する現実」、しかも短くわかりやすいものに偏ってしまいます。すると、インパクトの強い言葉や写真、映像をみてすぐに「良い・悪い」「好き・嫌い」などを判断してしまうことになるのです。わたしはこのことがフェイクニュースの温床になっていると思います。
つまり、判断を保留して、時間をかけて考えたり調べたりすることが「嘘に騙されやすい状態」を回避する方法だと思うのですが、時間をかけて考えたり調べたりする、ということは簡単にできることではありません。ここで役に立つのが、実は「雑誌」なのです。
雑誌の記事は、「時間をかけて考えたり調べたりすること」を肩代わりしてくれる上に、リアルタイムでない分、ネットの情報よりも時間を置いてから読むことになるので、「すぐ判断すること」を回避できます。ネット上から玉石混交で濁流のように押し寄せてくる情報に触れた数週間後、プロの記者やライター、専門家たちが集って構成された雑誌の特集記事を読むことで、「自分が見たいと欲する現実」ではない、客観的な視点から冷静に判断することができるのです。ネットにも「まとめ記事」のようなものはありますが、ネットで見つけた情報を無責任に羅列したものとは、信頼性も説得力も全く違います。
ネットの隆盛に押され、影が薄くなってしまった雑誌ですが、長年にわたって培われてきた取材と編集の技術の高さは侮れません。「マスメディアは信用できない」などと言われることがありますが、わたしは、フェイクニュースや陰謀論にまみれたソーシャルメディアと比べれば、はるかに信用に足るメディアだと確信します。
SNSに疲れたら、近くの書店に行って、雑誌を手に取ってみてください。あなたが気になった情報について、じっくり丁寧に解説してくれている記事があるかもしれません。そして、この「ポスト・ポスト・トゥルース」時代に、視点を増やし、情報をゆっくりと時間をかけて吸収することの大切さを実感していただけるのではないでしょうか。