宮崎駿監督作品「君たちはどう生きるか」から、事前情報・ネタバレについて考える(ネタバレなし)

川辺にたたずむ青鷺の写真

宮崎駿監督によるアニメ映画「君たちはどう生きるか」、みなさんはもうご覧になりましたか?

わたしは中学生の頃「魔女の宅急便」を観に行って以来、いまひとつ気乗りせず、宮崎駿監督作品とは疎遠になっていたのですが、2020年、コロナ禍で特別上映されていた「千と千尋の神隠し」を娘と観に行って大いに感動し、「宮崎駿監督ってやっぱりすごいんだ!」と改めてその才能の偉大さを思い知らされたこともあり、今回の作品は、上映まもなく劇場に足を運びました。

「上映まもなく」足を運んだ理由はそれだけではありません。何しろ今回は、上映開始まで事前情報はほぼゼロ。ポスター以外に宣伝活動も行わず、パンフレットも上映初日には販売せず、さらに劇場スタッフの目にも触れないように、なんと事前の映写テストすら行わなかったという噂も。上映までは絶対に情報が漏れないよう徹底していたようです。逆に言えば、「上映されてしまえば情報はダダ漏れ」になってしまいますので、何も情報に触れないまま、どんな映画が上映されるか全くわからないまま劇場に足を運べる機会は初日しかないわけです。こんなチャンス、よほどのマイナー作品を目隠しして観に行きでもしなければなかなかありません。

果たして、わたしを含めて劇場に集まった多くの観客は、どんな映画が始まるか全くわからないままスクリーンを見つめ、何が起こるのか、話がどこに行くのか、ドキドキしながら約2時間映画に浸り切るという、作品の中身以上に貴重な体験をすることができました。

宣伝もせず、劇場にも一切内容を明かさず、それで日本全国で大規模なロードショーを行うなんて、おそらく宮崎駿監督、そしてスタジオジブリにしか実行できないことではないでしょうか。何せ今の時代、少しでもどこかに情報が流れれば、たちまちネット上に広がってしまい、見ないようにしていても目に入ってしまうほどです。それが過剰になってしまったせいか、最近のSNSなどは「まだ観てないんだからネタバレしないで!」と映画のストーリーやオチを書くことで批判されてしまうこともしばしばです。

思えば昔は、テレビで深夜に上映されている映画などは、なんの予備知識もなく、ただ夜ふかしのついでに観ていたものでしたが、それが驚くべき傑作だったりするもので、その時の感動というのは他では味わうことのできない、格別なものでした。

わたしはさほど気にしない方で、あえてネタバレを確認してから観に行ったり、評論家の詳しい解説を聞いてから「面白そうだから観に行こう」とチケットを取ることもあるぐらいですが、確かに「なんの予備知識もなく、どんな映画かも知らないまま観る」ことで生まれる驚きや感動というものは、一生に一度きりのもの。今回の「君たちはどう生きるか」は、「こんなふうに映画が観られたらなあ」という観衆の願望、「こんなふうに映画を観てもらえたらなあ」という作り手の願望が、見事に叶えられた作品だったのではないでしょうか。

結果的には、本作は初動4日間の興行収入が「千と千尋の神隠し」を超えて21.4億円、観客動員が135万人と大成功(内容も分からないまま買わざるを得なかった劇場側も、シネアド(上映前に流れるCM)への申し込みが殺到しているとか)。当然、上映後には作品情報が各地から膨大に流れ出しました。だからこそ、あの初日の劇場の空気感、鑑賞中に息を呑んでスクリーンを見つめる感覚は、忘れがたい映画体験として胸に焼き付いたように思います。

……というわけで、今回はネタバレなしでお送りしました(笑)。