AIがポピュラー音楽を支配する?

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ラッパーのドレイクと、シンガーソングライターのザ・ウィークエンドというアメリカ随一の人気アーティスト2人の「AI生成によるコラボ曲」が、ポピュラー音楽界に揺さぶりをかけています。

楽曲は、ドレイクとザ・ウィークエンドに似せた声で歌われていますが、これはAIで生成したものだとされており、Ghostwriter977なる謎の人物により本人に無断でSpotifyにアップされました。しかし後にレコードレーベルの要請により削除。一応「著作権侵害」という理由での削除ですが、歌詞も楽曲もオリジナルなので、これが本当に著作権侵害と言えるかどうかは明確ではないようです。

その後、カナダのシンガー・グライムスが「ロイヤリティを折半するという条件でAIでの使用を許可する」と表明したというニュースもありましたが、この楽曲が起こした波紋は、アーティストの声が権利保護されるのかどうかだけではなく、「AIがアーティストの代わりに音楽を作ることの是非」に踏み込んだことにも注目が集まっているのです。

AI生成による音楽は、人間によって作曲された過去の楽曲データを元に作曲されます。数年前にあった、モーツァルトの新曲をAI生成するというプロジェクトも、AIにモーツァルトの楽曲を学習させることで「モーツァルトらしさ」を再現しようとしたものでした。

今回の楽曲がショッキングだったのは、「本人じゃないけど、本人と遜色のない良い曲」だったことです。つまり、これまでに作られてきた膨大な音楽データがあれば、新たに本人が作曲する必要も、歌う必要も、演奏する必要もなくなってしまうのではないかということです。

しかし、「商業ポピュラー音楽」はこの「新たにアーティストが生まれ、新たにヒット曲を生み出さなくてはならない」ということを運命づけられていますが、これは「音楽」にとっての必須条件ではありません。クラシック音楽はその名の通り、歴史的に評価の定まった音楽を演奏するものですから、新曲は(現代音楽は別として)ありません。民族音楽の分野も、過去の曲を演奏することが当たり前です。だとすると、「商業ポピュラー音楽」も「クラシック」となり、今後、今までのように人間が大量の楽曲を作曲し続けることは必要なくなったとしても、何ら不思議ではありません。

例えば60年代にシンセサイザーが登場した時、演奏家は仕事がなくなると恐怖しましたが、結果的にはシンセサイザーは生演奏とは全く別の楽器として活用されるようになり、新たな音楽を生み出すツールの一つとなりました。例えば2000年代の初音ミクの登場は、シンガーの仕事を奪うのではなく、「ボカロ」という別ジャンルの音楽を生み出すことになりました。2020年代のAIの参入は、わたしにはまるでそれらの再現のように見えます。

音楽配信プラットフォームがAIの生成した楽曲で溢れるようになる時、一体どんな音楽が生まれるのか。ワクワクしているのは、わたしだけでしょうか。

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