新書がまるごとNFTに!?「ハヤカワ新書」のNFT電子書籍は、未来の出版への布石……かも

新書表紙のイメージの下に「本を読む」というボタンのあるFanTopアプリの画面

古くからミステリー/SF小説の代表的な出版社として、近年ではダニエル・カーネマンやマイケル サンデルなどによるノンフィクションなどを手がけ、常に時代の先端に立っている印象のある早川書房。
そんな、75年の歴史ある老舗が今年、「ハヤカワ新書」という新書レーベルを始めました。

この新書レーベル、ハヤカワならではの、非常に個性的な興味深いタイトルの並ぶラインナップですが、一際興味深いのは、この新書には、「NFT電子書籍付き」バージョンがあるということです。
紙の書籍に電子書籍が付いている本は過去にもありましたが、これまではPDFやEPUBファイルをダウンロードするだけのものがほとんどでした。

では、それがNFTになると何が違うのでしょうか。体験するために、冨田勝著「脱優等生のススメ」のNFT電子書籍付き版を購入してみました。

紙のみの本もNFT電子書籍付き版も、一般の書店で購入することが可能ですので、地元の本屋さんに足を運び、1冊購入しました。通常版のハヤカワ新書は自由に中身が見られるように陳列されていましたが、NFT電子書籍付き版はフィルムでシュリンクされて、購入後でないと開けないようになっており、中には、NFT版を入手するための解説と引き換えのためのパスコードが記された紙が挟んでありました。

このハヤカワ新書に付いてくる電子書籍は、「FanTop」というNFTのマーケットプレイスに登録し、そちらのサービスからダウンロードすることが必要です。FanTopに登録し、電子書籍をダウンロードすると、取得した電子書籍に個体別の番号が付けられていました。番号は「#〇〇/1600」と書かれているので、発行されているデータ数が1600部だと予想されます。

そしてポイントは、このNFT電子書籍は、所有者と認められた人(今回の場合は、わたし)がFanTop内で「出品」、つまり「販売できる」という点です。

右下に「出品する」というボタンのあるFanTopアカウントのスマホ表示画面

ブロックチェーンによって管理されることで、わたしが所有している電子書籍は1/1600部になっており、無限に複製できるデジタルデータではありません。販売すると、この1部は閲覧権限含めて購入者に移譲されます。しかも、販売する際には「コンテンツ利用料」として一定額が権利者に還元されるようになるのです。

出品価格やコンテンツ利用料の書かれたFanTopアカウントの出品画面

もしこの仕組みが出版界で普及し一般化すれば、これまで古本屋やヤフオク、メルカリなどで作者を素通りして行われていた金銭のやり取りが、取引が行われるごとに作者の収入になるわけです。
NFTが先んじてアートの世界で注目されたのは、つまり「作品が売買を繰り返されて値段が釣り上がっても作者の儲けにはならない」という問題が解決するからですね。もちろん、映像や音楽などにも有効な手段になるでしょう。

今回のハヤカワ新書のNFT電子書籍はFanTopのアプリ内で読む必要があるのですが、正直なところ、これがとても読みづらい……。
再販売の仕組みは理想的だと思うんですが、結局今のNFTは、サービスを提供するそれぞれのプラットフォームに機能を依存することになるため、欲しいと思ったNFTを購入するたびに「NFTのアカウント」がバラバラで、しかもどれもが決定打にかけるという状況(FanTopにはAR機能が付いていて、所有しているデータがあたかも現実世界にあるかのように見ることができるのですが、この電子書籍の場合は、奥行きの一切ない二次元の表紙画像が出てくるだけで、全くリアリティがありません・笑)。やはりいろんな意味で、NFTは「過渡期」と言わざるを得ないでしょう。

でも、こうやって書店で購入した1冊のNFT本が実際に売買までできるというのは面白いし、「NFTって何?」という多くの人たちに認知してもらうには、概念や理想像を説明するだけではなく、このような「つまりこういうことだよ」ということを実体験できるサービスが必要なので、非常に価値のある取り組みだと思いました。