DSD録音を実体験——「Premium Studio Live」に行ってきました!

若い人たちにピュアオーディオのサウンドを聴いていただき、その面白さ、楽しさを知ってもらうためのイベント「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」は、今年の4月に高槻で行って以来、しばらくお休みをしているんですが、その二ヶ月後、アサヒステレオセンターさんとneco眠るの森さんにご協力いただき、番外編としてDSDの試聴会を行いました。

「音が良い」というイメージだけが先行していて、実際にDSD音源というものがどんな音なのかちゃんと聴いたことがなかったので、とても興味深い時間となりました。

この試聴会では、DSDは空気感の再現力が素晴らしいので、生楽器の音や音数の少ない演奏でそのポテンシャルを発揮するのではないか、という話をしていたんですが、森さんがふと

内橋(和久)さんのギターとかダクソフォンのソロを(DSDで)聴いてみたいですけどね」

とおっしゃっていたんですね。そこで、現在不定期イベントでSound & Recording magazineが「Premium Studio Live」と銘打った、レコーディングスタジオにお客さんを呼んでDSDライブ録音を行われていて、この日もサンレコのDSD配信専門レーベルからの坂本龍一+大友良英のセッションを聴かせてもらったこともあり、軽い気持ちで

「サンレコさん、企画してください(笑)」

とブログに書いていたんですが、その記事がサンレコの國崎編集長の目に留まり、Twitter上で

「内橋さんのダクソフォン好きなので、いただいたリクエスト検討します〜w」

というご返事が。きっと社交辞令だろうと思いつつ、僕の記事が読んでいただきたい方の目に触れたということだけでものすごく感激していたのですが、その約3ヶ月後、なんと内橋さん参加でのPremium Studio Live開催が決定したというダイレクトメッセージが編集長から届き、部屋中を転げ回るほど大興奮しました(笑)。

これを観ずして何のためのピュアオーディオ視聴会か!という意気込みで(笑)、祝日前のド平日に、「Premium Studio Live」の会場となった東京のスタジオ・サウンドバレイのレコーディング現場にお邪魔してきました。

ちなみにダクソフォン(DAXOPHONE)というのは、ドイツの音楽家ハンス・ライヒェル氏(なんとこの録音があった日に他界……合掌)が発明した楽器で、木の塊のようなピックアップに様々な形の木片を挟み込み、弓で弾いたり指やマレットのようなもので叩いたり弾いたりして演奏します。パーカッションのような音、水面に上がってくる泡のような音、鳥の鳴き声のような音、クジラの鳴き声のような音……と、鳴った音に関して「○○っぽい」と言うことは出来るんですが、基本的には「こんな音を出す楽器」という決まりのあるものというよりは、もっと可能性の広い、様々な音色を生み出せる楽器のようです。ハンス氏のサイトで実際の音が聴けます。

防衛省の向かい側にあるスタジオに、開場より2時間ほど前に到着。この日の出演者・内橋さん、青葉市子さん、そしてスペシャルゲストとして参加された小山田圭吾さんがステージに揃い、セッティングが終わりかけた頃でした。

レコーディングエンジニアを担当されていたのは、関西出身で現在は東京で活躍されている溝口紘美さん。DSD試聴会でかけさせていただいたneco眠るのライブ音源も録音されていた方で、以前から森さん経由でピュアオーディオ視聴会のことは知っていただいていたのですが、この日初対面。溝口さんのサポートで参加されていた西川文章さんも、関西音楽シーンで全幅の信頼を得られている名エンジニアにしてギタリスト。お二人とも視聴会に興味を持ってくださっていましたので、近いうちに是非お招きしたい!

DSD録音に使用したのは、KORGから発売されているMR-2000S。4台を同期して使っていたそうですが、どう使っていたのかはよく分かりませんでした(笑)。間にインシュレーターを挟んでいて、こういった機材にも使うんだなぁと妙に感心してしまいました。

コントロールルーム内にある機材の数々に目を奪われながら、國崎編集長には「客席でもコントロールルームでも、どっちで聴いてもいいよ」と言っていただいていたのでどちらで聴こうか悩んでいたところ、

「これから三人がリハーサルを兼ねてインプロヴィゼーションをやろうっていうことになってるので、リハーサルはスタジオ内で聴いて、本番はコントロールルームで聴いたらいかがですか?」

とご提案いただいたので、それは是非!ということで、本番前のスタッフ数人がいるだけのスタジオ内でぽつんと座って、超レアな三人のインプロヴィゼーションを聴かせていただきました。

スタジオ内の音は、音響の良いライブハウスといった感じでしたが、お客さんに聴かせるための空間ではないので、三人の前で聴いていた音は、若干声が引っ込み気味のバランスでした。しかし音の立体感は素晴らしく、生音が天井に抜ける感じや、ダクソフォンの音が前方にうねって進んでくる感じ、エフェクターのスイッチを踏み込む音の質感など、全ての音がリッチ!

演奏は、中央の青葉さんのギターと声に右から内橋さん、左から小山田さんがエフェクターなどを駆使して音を連ねていく完全即興。

小山田さんのインプロなんて初めて聴きましたが、アブストラクトな演奏の中で、コーネリアスサウンドの種明かしとでも言いたくなるような、あの独特のスタッカートの効いたカッティング、ぐにゃっと曲がるようなファニーなサウンドなどを、その場で次々に繰り出していきます。

即興のスペシャリスト・内橋さんはテーブルの上のエフェクターを操作しながらのギタープレイ。リアルタイムにサンプリングした音をループさせたり機材をガチャガチャと叩いた音を挟んだり、ダクソフォンの音を織り交ぜたりしながら「曲」を作り上げていきます。

三人がそれぞれ唯一無二の個性を剥き出しにした音を惜しげなく放出しながら、相手の出方を見て時に手を取り合い、時に突き放しつつ進行していく10分ほどの超濃密なセッションを2セット。
豪華過ぎるメンツと理屈抜きに格好良いスリリングなインタープレイに圧倒されていると、國崎編集長が横に来られて、

「どうですか?」

「す、すごいっす……」

「すごいですよね(笑)」

と、正に「言葉が出ない」を地でいく会話を交わしました(笑)。

この後ミュージシャンのお三方は休憩、文章さんはマイクの調整、溝口さんはサンレコに掲載される写真をイケメンのカメラマンさんに撮ってもらったり機材メーカーさんとご挨拶されたりして、18時半にはお客さんのご来場。19時過ぎに本番がスタートしました。

前半1時間は内橋さんのサポートで青葉さんの曲を演奏。内橋さんUAとのデュオで弾かれているのを見たことがありますが、歌のバックで奏でる時の内橋さんの演奏は優しく滑らかに聴こえながら、音の選び方や構成はまるでインプロのような不思議な音を生み出していて、完全即興でガツンと弾いている時とはまた違う強烈な個性を放っています。

コントロールルームで聴いた音は、スタジオ内のサラウンド感とは全然違う、いわゆる「スタジオ録音」らしい音で、それぞれの音が細かなディテールまでつぶさに聴こえてきます。特に青葉さんの声は呼吸する時の音も含めてものすごく生々しく、スタジオの一番奥からコントロールルームに入り込み、耳元まで近づいて来て、すぐそばで歌っているかのようなリアリティがありました。これがレコーディングスタジオの音なのかぁ……。

「火のこ」という曲では、お客さん全員がエアキャップ(緩衝材)をプチプチと鳴らすコーナーがあり、コントロールルームでもかなり焚き火感のある音で響いていましたが、これもまたスタジオ内だと全然違う響き方をしてたんでしょうね。

休憩を挟んでの後半は小山田さんも登場して、即興あり、青葉さんの曲あり、ラストにはsalyu × salyu「続きを」のカバー(お客さんがコーラスを小山田さんと一緒に歌うということになっていましたが、客席にsalyuさん本人が原田郁子さんと来られていて、一緒に歌ってました・笑)。「スタジオ録音の現場にお客さんが遭遇する」というコンセプトから、アンコールもなく終了しました。

お客さんが帰ってしばらくすると、お三方がコントロールルームに入り、DSDのプレイバックを聴きながら、國崎編集長が誌面用の感想などをお訊きしていました(この場面が、自分の視聴会とオーバーラップして、見ていて勝手に緊張してしまいました・笑)。

皆さんの感想は、「声や生ギターの音が生々しい」「細かな音までよく聴こえる」といったDSDの特性を言い当てた言葉が続き、「音数が少ない録音の方がDSDの良さが出るのかも」と、僕のDSD試聴会での感想とほぼ同じ話もあり、自分たちは間違ってなかったんだとホッとしつつ(笑)、やはりDSDの音のクセというか傾向というのは録音物をかなり選り好みするだろうなぁ、と改めて思いました。何を録ってもそれなりに良い音にはなるんでしょうが、DSDのポテンシャルを発揮できるのは「DSDネイティブで録音された、音数の少ない生楽器の音」ということになるんでしょうね。

そうなると、ビッグバンドやクラシックのオーケストラの音などはPCMのハイビットレートの方がいいのかも知れません。先日、河口無線で行われたA&Mの試聴会では、A&MのアンプにクボテックのDACを繋いで久保社長がアナログレコードから24bit/192kHzでエンコードしたクラシックの名録音を聴かせてもらいましたが、息を飲むような音の広がりとダイナミズムに、スピーカーの存在を忘れ、試聴室がコンサートホールと化したかのような錯覚を覚える臨場感に溢れていました。

……で、コントロールルームのモニター環境で聴いたDSDの音に対する僕の感想なんですが……正直なところ、鮮明で細かなディテールが聴こえてくるリアルな音でしたが、この音がホームオーディオのシステムで鳴らした時にどんな音になるのかまでは想像がつきませんでした。やっぱり販売するために録音されたものは、リスニング用のオーディオ機器で聴かなくてはいけません。ということで、これはリリースされたらまたDSD試聴会やるしかないですね。

というわけで、この日の演奏は12月15日にOTOTOYよりリリースとのこと。DSD再生環境のある方は是非ご自宅の環境で、ない方は僕と一緒にアサヒステレオセンターで聴きましょう!

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