現役学生、五輪真弓に感動?!…… 第六回「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」レポート

朝方、僕の自宅がある京都を出た時には少し肌寒さを感じましたが、大阪に出てくると、実に秋らしい気持ちのよい陽気。
そんな季節感が肌に伝わる10月の下旬。六回目となる「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」をA&M LIMITED視聴室で開催いたしました。

今回ゲストにお迎えしたのは、学生主導による関西のオルタナティブな音楽団体・CRJ-westより、(写真左から)福山裕紀子さん、清水美里さん、梶原亜沙美さんのお三方に来ていただきました。皆さん現役の大学生/大学院生です。
(ちなみに背後にいる男性は、当社の親会社・放送出版プランニングセンターの小西くんです。音楽大好きな彼が「ぜひ聴いてみたい」と言ってくれたので来てもらいました)

皆さん、普段音楽を聴かれているのは、主にiPodやiPhone、ラジカセやパソコンという環境。事前に打ち合わせさせていただいた時には「自分に音の違いが分かるのかどうか……」と不安を感じておられましたが、さて……。

まずは、本日のオーディオシステムについてご紹介しておきます。今回は久々に超弩級パワー・アンプ「ATM-2001S」も登場。上部の蓋が開いており、ずらりと並んだ真空管が青く光を放っているところも見られました。

パワーアンプ:ATM-2001S
コントロールアンプ:ATC-2
イコライザアンプ:ATE-1
CDプレーヤー:WADIA581
ターンテーブル:TRANSROTOR ZET-3
トーンアーム:TR5009
カートリッジ:My Sonic Hyper Eminent
スピーカー:GamuT Superiores S5

(使用した音源について、CDは〈C〉、アナログ盤は〈ア〉と表記しております)

まず最初にかけたのは、福山さんのお父さんの蔵書の中にあったというレッド・ミッチェルの「BASS CLUB」〈ア〉より“Yesterdays”と“Alone Together”。
ベース二本とピアノによるトリオでの録音盤ですが、後者ではベースのデュオになっています。
今はご実家にもプレーヤーが無いらしく、福山さん自身、一度も聴いたことがないということでしたが、初めて聴いたお父さんのレコード、いかがでしたか?

福山さん(以下“福”)「なんか……運指が見えるようです」

スピーカーの左右にそれぞれベースの音を振ってあるんですが、スピーカーの前に二人が並んで弾いているような音のリアリティが素晴らしいです。

三浦社長(以下“三”)「録音もいいし保存状態もいい。お父さんは若い頃、かなりオーディオに凝っておられたのかな」

梶原さんはいかがでしたか?

梶原さん(以下“梶”)「低い音がすごく響いてましたね。普段(自分の環境で)CDとか聴いてるとこんなに響くことが無いし。振動とかも伝わるぐらいの音ですね」

三「音が伝わるっていうのは、音波に乗って人間の耳に届くわけね。で、人間の耳なんてのは左と右の二つしかない。だけどこれ聴いてると、目の前にひとつのステージがあるように感じるよね。最近の脳の研究から言うと、耳は左右しか聴けないんじゃなくて“高さ”も、それから“奥行き”も感じる。左右しか無いのにそれだけ感じるっていうのは、顔の、鼻かどこかにセンサーがあるんじゃないか、って言われてるらしい。ところがそれをCDで聴くと、そこまでは伝わってこないのね。だから、現代のCDっていうのは何か欠落しちゃってるのかなぁ、と。レコードの場合だと、“ピチッ”“パチッ”なんてノイズが出るけども、聴いてるうちにノイズなんてあまり気にならなくなるよね。演奏自体に“うわぁ、素晴らしい”って引き込まれていって。特に人間は、見えないと余計連想するから、特にそういうことを感じると思うんだけどね」

梶「家のオーディオでは、こんなに空間的な奥行きが絶対出ないですね。特にパソコンから聴いてたら何も分からない状態になって(笑)」

続いては、梶原さんが“一度も聴いていない”、そして“開封もしていない”という、アーサー・ラッセルとアレン・ギンズバーグの10インチレコード「Ballad of the Lights」〈ア〉を、まずその場で“開封”!

何せ視聴会の現場にいる人が誰も聴いたことのないレコードです。どんな音か、正解が全く分からないんですね。買った本人も知らないまま再生しましたが、ターンテーブルの回転速度が合っているのかすらもよく分からず……でもどうやら、A面は回転速度を間違えて再生してしまっていたようです。失礼しました!

で、B面はチベットのマントラを歌うギンズバーグにチェロなどの楽器が絡む演奏でしたが、ちょっと前衛的な音に、皆ややついていけない雰囲気……。

梶「私も一度も聴いたことがなかったんで、何とも言えないんですけど……ちょっとこれは特殊な感じでしたね(笑)」

えー……(笑)では次は、清水さんにお持ちいただいた、PARAの「CURRICULUM」〈CD〉より“CORINTO”を聴いていただきましょう。

清水さん(以下“清”)「個々の音がちゃんと聴こえてて、音楽全体に厚みというか、奥行きというか、立体感がありました」

梶「千住さんのシンバルの“シャーン”っていうのが、すごくクリアに聴こえてる感じがしました」

さあ、どんどん参りましょう。次は梶原さんの持って来られたBRAZILの「BIRD」〈CD〉をプレイ。
楽器の音云々と言うよりも、スタジオの空気感がすごく伝わってくる録音ですね。これはやはりヘッドフォンよりもスピーカー向きではないでしょうか。

梶「自分で聴いてても、他のCDより結構空間を感じる音やな、と思ってたんですけど、やっぱりこのオーディオシステムで聴くとさらに良いですね、ほんとに」

三「確かに奥行き感、あったね」

梶「こんな録音の仕方をしてたんやな、というのが分かって、普段のCDプレーヤーの環境の悪さが、(作り手に)申し訳ない……(笑)」

さてここからは、三浦社長より、歌もののレコードをいくつか続けて聴いていただきました。
視聴会では久々に登場するメアリー・ブラックの「The Collection」〈ア〉より“Only A Woman's Heart”。そして、こちらもお馴染みノラ・ジョーンズ「Live from Austin TX」〈ア〉より“Come Away With Me”。

そして、二回目の視聴会と、前回視聴会後に見学者の皆さんに聴いていただいたエリック・クラプトンの「Unplugged」〈ア〉を取り出し、「どの曲がいい?」とお三人さんに選曲してもらったんですが……皆さん、クラプトンはあまりご存じない様子。
クラプトンのアンプラグドと言えば、当時は猫も杓子も買ったような大ヒットアルバムですが、それも今は昔。彼女らが小学校に上がるか上がらないかの頃のお話です(笑)。

梶「(“Layla”を指差して)“これ”ぐらいしか分かんないです(笑)」

ということで、“Layla”を聴いていただきました。いやぁ、なんか普段はあんまり意識することってないですが、歳って、やっぱり取るもんなんだなぁ、と思いました(笑)。

三「クラプトン知らないとなると……外国のミュージシャンだと、どんな人を知ってるの?」

梶「私はすごくビートルズが好きで、中学生の時はビートルズしか聴いてなかったです」

三「ビートルズか……ビートルズは……どこかにモノの盤があると思うんだけどね……」

この“どこか”というのは、視聴室の裏にある、未整理のまま堆く積まれたアナログ盤を積めたダンボール箱の“壁”の“どこか”ということです(笑)。

三「(ダンボール箱の)どこかに入っちゃってるんだよ」

福「宝探しみたい(笑)」

清「探してたら陽が暮れる(笑)」

僕も視聴会用にと思ってビートルズの「1」は買ってたんですけど、ビートルズって録音自体はあんまり良くないから、三回目の時にとりあえず持ってきて以来、会社に置きっぱなしだったんですよね。試しにでも聴いてもらえば良かったかな。

三「ビートルズ以外だと……ジョン・バエズは?」

梶「あ、ジョン・バエズ好きです」

ということで、こちらは三回目以来、「Diamonds & Rust」〈ア〉が久々の登場。今回は梶原さんが“Danny Boy”が大好き、ということで“I Dream Of Jeannie/Danny Boy (Medley)”を聴いていただきました。

そして、最近レギュラー出演(?)となっている五輪真弓「恋人よ」〈ア〉より表題曲。なんとこれは、お三方全員ご存知でした。昭和歌謡の底力!

福「おばあちゃんが好きです」

あ、やっぱり(笑)。

さて、ここまで続けてアナログレコードを聴いていただいたので、三浦社長よりオーディオシステムの仕組みを簡単にお話しいただきました。当記事をお読みの方は、こちらをご参照あれ。

続いては、福山さんが持ってきてくれていたもうひとつのアナログ盤、ESGの「Step Off」〈ア〉を聴いていただきましょう。福山さんご本人が“ジャケ買い”した“新品未開封”です(笑)。こちらもその場で開封!

ファットなベースラインがガツンっときますね。福山さんも初めて聴くんですよね?

福「はい。YouTubeで一回聴いたぐらいです。でも、所詮YouTubeですんで、音の情報量が違いますし、こうやってちゃんと聴くと……うまく言えないですが、“何かが言いたいんだな”っていうのが音から伝わってきますね」

皆さん、結構YouTube使われるんですね。

梶「私はアナログ盤を再生する機器を持ってないんで、買ったLPとかを、YouTubeで上がってないかなぁ、って(笑)。そこでだったら聴けるかも、って結構探して聴いたりするんですけど、そんなんで聴いても全然分からないっていう(笑)。聴いた気にはなるんですけど。“ああ、こんな音楽なんや”ぐらいのことですから」

あー、YouTubeにそんな使い方があるんですね。この辺り、今の学生さんと、昔の学生さん(笑)の違いかも知れませんね。

梶「なんか他の楽器の音もそうなんですけど、LPだと、特に人間の声がめっちゃ綺麗に出ますよね」

清「歌ってる人が(左右のスピーカーの)真ん中に居てる感じがしてた」

それでは、もう一曲歌ものを聴いていただきましょうか。
美空ひばり「ひばり いん あめりか」〈ア〉より“MY Way”。フランク・シナトラでお馴染みのあの曲を、日本語で歌っております。
美空ひばりの歌の力強さ、伸びやかさが堪能できる録音です。この盤の収録曲、すごいですよね。フルで聴いてみたい!

梶「最後の声が高くなるところとか、めっちゃ響き渡っててすごいですよね」

やっぱり歌ものは良い音に感じられますか?

梶「感じますねぇ」

今日は歌ものを集中的に聴いていただきましたが、どれが良かったですか?

清「“恋人よ”」

梶&福「うんうん」

清「本当に、こっちに音が迫ってくるみたいな。臨場感溢れる、っていう感じがしました」

梶「声もすごかったけど、楽器の響きもすごかったですよね。美空ひばりの方は声がすごくて、なんか“生きてる声”というか」

三「これは、録音も楽器というよりひばりの声を中心に録ってるからね」

梶「五輪真弓は、すごく“完成された作品”っていう感じがしました」

この後三浦社長から、このレコードが当時オーディオファンから評判の悪かったCBSソニーからリリースされているが録音がいいのは恐らく海外録音だからだ、という話から、その頃のCBSソニーの録音ソースがいかに駄目か、という話になりましたが……ここでは割愛します(笑)。

それでは歌ものをもう一曲。
視聴会では第一回から何度となくかけている、手嶌葵の「The Rose~I Love Cinemas~」〈CD〉を聴いていただきます。
同じ歌ものですが、CDとアナログの違いって、どう感じられます?

梶「(CDは)クリアーになった感じ。ザラッとした感じがCDだとしないし。それはそれで、“そういう音なんやな”と思って楽しんだら、CDはCDで良いのかなぁ、と思います」

確かに。このCDは録音自体が良いですからね。

三「これは割合と良い録音だと思うハスキーな声と録音の手法が上手くマッチしたCDだと思う」

……さて、もうそろそろ時間が来そうですので、最後、清水さんから1曲選んでいただきましょうか。

選んでいただいたのは、ツジコノリコの「SHOJO TOSHI」〈CD〉より“ホワイト・フィルム”。
声以外の生楽器の音は入っていない、いわゆるエレクトロニカですが、いかがですか?

清「普段イヤホンで聴いてるよりも、音が隅々まで聴こえてて、“ああ、ここでこういう風にして(音で)遊んでたんや”っていうのが分かって、すごく面白かったです。“あ、ここで音を震わせてる”とかが、結構よく聴こえて」

やっぱりイヤホンではなくて、こうやってスピーカーで聴かないと、スピーカーの間に“像”を結ぶような感覚とか、楽器同士の距離感とか、音が身体に響いてくる感じとか、そういうのは分からないところがありますよね。

清「はい」

では最後に、おひとりづつ今日の視聴会の感想をお聞かせいただけますか。

福「いつもライブで聴く音が一番生に近い音だと思ってたんですけど、録音にこだわったものを忠実に再生させた音を聴いて、いかに自分の耳が“使われてなかった部分が多かった”のと、知らない音が多かったということを知ってすごく驚きましたし、やっぱり、こういった高額なオーディオセットで聴く機会なんて滅多に無いので、自分の周りでも、今日の視聴会の話をしたら“俺も行きたい”“私も行きたい”っていう人達もいました。そういう人達にも、いかに自分たちが“均質化された音”を聴いているか、とか、身体で、耳で、五感で聴くことを知ることができれば、もっと視座が深まるんじゃないかなと思いました。だから、ぜひ他の皆にもこの音を聴いてもらいたいです」

清「私はアナログのレコードを全然聴いたことがなくて、今日初めてレコードの音を聴いたんですけど、やっぱりCDよりもレコードの方が全体的に“なめらか”に聴こえるというか、優しさを感じるというか……それに比べるとCDの音はどこか機械的な面があるな、と。私はどっちかと言うと、アナログの音の方が好きですね。私は、いつもイヤホンとiPodで音楽を聴いてるので、基本“ながら聴き”なんですよ。こういう、音楽と真剣に向き合う機会っていうのが、ライブでしかなくて。今日(視聴会に)来て、こういう音楽との接し方があるんや……って思ったんで、“ながら聴き”を脱出して、もうちょっとライブ以外でも真剣に音楽に向き合っていきたいですね」

梶「大学の卒論で、少し音楽について調べてたことがあって、音楽の歴史を辿っている過程で、オーディオマニアの人がめっちゃ批判されてる本を読んだりもしてたんですよ。それで結構(オーディオに)偏見もあって。私自身が中学生・高校生の時って、インターネットからMP3で落として音楽を聴いてることが多くて。海外のバンドとかが多かったんでライブに行くことも無いし、お金もなかったし。だからその音を“生の音”やと思ってたんです。“どうせ私には音の良し悪しなんか絶対分からへんわ”と思って聴いてたんですけど、いざこうやって聴くと、“あ、こんなに違うもんなんやな”と。アナログとCDも全然鳴り方が違う。でも、どっちが良いとかそういうことじゃなくて、どっちもそれぞれ良いところがあるし、どっちが良いとか、ライブに行くのが一番とかじゃなくて、こうやって時間をかけて音楽を聴くっていうこと自体にも価値があるっていうか。そういうことに時間をかける人がいても、“オーディオマニアがまたなんか言うてる”みたいなことじゃなくて、ひとつの音楽の楽しみ方として、もっと認められて良いものやと思いました」

皆さん、最初は「本当に音の違いが分かるのかなぁ……」と首を傾げておられましたが、実際に聴いてみれば、正に一“聴”瞭然。前回、村田さんが視聴会終了後に「やっぱり実際に聴かないと分からないんですよね」とおっしゃってたんですが、正にその通りで、逆に言えば、「実際に聴けば」分かるんです。

いつも視聴会に来ていただく方に、事前に内容をお話しさせていただく際、「私に違いが分かるかなぁ……」とおっしゃられることが多いんですが、ピュアオーディオの音に触れられたことのない方々にとっては、普段聴かれてる音とは「全く別物」ですから(ライブハウスのPAで聴く音と、iPodで聴いてる音が全然違う、ということは分かりますよね? つまりシステムが違うということは、それぐらい聴こえる音も違うということです)、普段主にMP3のソースを安価なイヤホンで聴いてる方、清水さんのようにこれまでアナログ盤の音を聴いたことがない方であればあるほど、きっとその違いははっきりとしてくるんだと思います。これは、マニアの方が高級ケーブルや電源部を凝りまくるような「一部の人しか分からない」ような世界の話ではないんです。

それでも「私は音の良し悪しなんてどうでもいい」という方に無理強いするつもりは全く無いですが、もしこの記事を読んでいただいて「私にも分かるのかな……」と興味を持っていただいた方は、11月13、14日に、大阪は日本橋のオーディオ専門店・河口無線の四階でA&M三浦社長による視聴会がありますので、ぜひ遊びに来てください。13時〜17時まで。入場無料、出入り自由です。確実に聴きたいという方はご予約いただいた方が良いですが、当日飛び込みで入っていただいても恐らく大丈夫です。
東京ではその一週間前、11月5〜7日に東京国際フォーラムにて行われる「インターナショナルオーディオショウ」にA&Mも出展しております。こちらも入場無料。世界中から最高級のオーディオ機器が集まるアルティメット大会みたいな(笑)イベントですので、東京の方はぜひ暇を見て覗いてみてください。多分、興味本位でえげつないデザインのスピーカーとかとてつもない値段のアンプとか見てるだけでも面白いと思いますよ。
11月はこのピュアオーディオ視聴会はお休みになりますが、河口無線の視聴会で皆様をお待ちしております。

というわけで、今回もゲストの皆さんに楽しんでいただけたようで、本当に嬉しいです。
CRJ-westの皆様、どうもありがとうございました。ぜひまた遊びに来てください!

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